今回の漢字は「楓」。秋風にゆれる紅葉の美しさを表すために、中国の詩文から借りてきた漢字です。

「楓」という字は木へんに「風」と書きますが、実はこの漢字、中国では「フウ」と読み、「カエデ」ではなく、マンサク科の落葉樹のことを意味しています。
枝が弱く風でゆらぐため「風」の字を使ったとされ、日本へは江戸時代に渡ってきて、通り沿いや公園に植えられています。

一方、日本で言う「カエデ」とは、中国では木へんに親戚の「戚(セキ)」と書く、「槭(シュク)」と呼ばれる木のことを指します。
日本の「楓」、中国の「槭」は、カエデ科カエデ属の落葉樹。
和名の「カエデ」の語源は、葉がカエルの手に似ていることから、「蛙の手=カエルデ」と名づけられ、それが「カエデ」に変化したといわれます。

なぜ日本の「楓」が木へんに「風」と書くようになったのか。
その答えは古代律令時代にさかのぼります。
当時の知識人たちが中国の文献でこの文字を見つけたとき、繊細で美しいカエデの葉を意味している、と誤解して使い始めたというのです。

楓は、一年を通じて人々の目を楽しませてきました。
その代表格ともいえるイロハモミジの木は、春になると真紅の芽をつけ、夏は目にもまぶしい若葉色の葉を茂らせます。
その様子を、鎌倉初期の天台宗の僧侶・慈円は、こんな歌に残しました。
「春雨に若かへでとて見しものを 今は時雨に色かはりゆく」
そして今、例年よりもゆっくりと、紅葉前線南下中。
やわらかな秋の日差しと爽やかな空、刻一刻と装いを変える里の山。
しみじみうれしい、日本の秋です。

ではここで、もう一度「楓」という字を感じてみてください。

楓に銀杏、櫨(ハゼ)の木や蔦。
それらの植物が華やかな色に染まる姿を総称して「もみじ」と呼びます。
「もみじ」の語源は「もみづ」という動詞。
「もみづ」とは「揉み出づ」、つまり「揉み出す」という動作のことです。
いにしえの人は、日に日に色を変えてゆく木々の葉をながめ、ふと、自分たちが布を染めるときの手順に重ね合わせてこう、考えます。
神さまが木々の葉をもんで、美しい色を引き出しているのではないだろうか……。
見えざる神の手による芸術を、今年も存分に、楽しみたいものです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。